いくら

今日は彼の誕生日。

「結婚してください」

そう言って差し出したものは、三角おにぎり…

…の形をしたケース。

蓋を開くと、梅干しの乗ったリングが入っていた。

「プロポーズに指輪をパカッて夢やったんやけど、サイズもわからんし、一生に一度のもんやから、勝手に決めんと一緒に選びたかったし…」

と照れた様子で言い訳してる。

そうやね。

内定が決まったとは言え、学生の身分で高額な買い物を自分では決めきれへんわな。

真面目なやっちゃで。

「おにぎりの具は梅干し好きやったやろ」

うん。

「10 回目でやっと出たからほっとしたわ」

へえ。

「おんなじのん何回もでるんやんか」

ほお。

「せやけど、いくらは出えへんかってん。くやしいわ」

そっか、いくら好きやもんな。

「…返事は、誕生日のときでええから」

わたしの誕生日は約半年後。

「ノーやったら、指輪かえしてくれたらええから」

…うん。

うなずくわたしをみて、複雑な顔をしてる。

そんな顔するんやったら、すぐ返事きいたらええのに。

と思いながら、わたしは誕生日プレゼントを彼に渡した。

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

今日は彼女の誕生日。

そして、半年前のプロポーズの返事をきく日。

ずっと、この日が来るのを待ってたけど、近づくにつれて怖ぁなってきた。

OK やったらすぐに返事してくれてもええんやで。

そう思いながら、ずっと待っていた。

相手はそんなこと全く気付かんみたいで、なんも言うてこうへんし、なんやったらプロポーズなんかなかったんちゃうかってな態度やし、もしかしたら夢で言うたんかなってこっちも心配になってくるし。

誕生日プレゼントはまだ用意してない。

当日欲しいもんいうからって、それって。

別れてくださいとか、そういうやつ?

そうやんな。

プレゼントなんかもろたら別れにくいもん。

律儀なコやから。

「おまたせ」

…心臓とび出るかと思うたわ。

背後から声をかけられて、振り向くと彼女がいる。

今日もかわいい。

手には三角おにぎり…

おにぎり型指輪ケースを持っている。

「はい」とケースを渡してきた。

ごめんなさいパターンかあぁぁ。

泣きそう。

でも泣いたらあかん。

相手に失礼やし、プライドもある。

そうやって、こらえてたら。

「中、見て」

って蓋を開けようとする。

中には…いくらが乗ったリング。

「いくら、好きでしょ」

「一発で出したで」

「わたしのはこっち」

と言って、ポケットからおにぎり型ケースをもうひとつ取り出し、中の梅干しリングを左の薬指にはめた。

「これからもどうぞよろしくね」

その瞬間、彼女を抱きしめ、こう叫んだ。

「「よろこんで」」